初めての探偵調査・その1

上野駅 探偵の記憶

上野駅

探偵トトロが今の探偵事務所に就職したのは昭和57年6月、初めての探偵調査は今でも昨日の事のように覚えている。

初めての探偵調査はある保険会社から弁護士を通してきた保険金詐欺案件であった。

保険金といっても生命保険ではなく、交通事故による休業損害保険金の搾取事件。

早朝より先輩探偵が対象者の自宅から張り込みを開始、尾行して勤務先に入ったのを確認し初出勤した私は遅れること10時過ぎに勤務先前で合流するも先輩探偵は別件の為、引き上げてしまう。

東京神田にある小さな雑居ビルの3階に対象者の事務所があり、出入口は1カ所であった。

なにしろ初めての張り込み、しかも対象者の顔写真と先輩探偵から聞いたその日の服装のみの情報しかない。見逃すまいと初夏の日差しを浴びながらきっと目も皿のようになっていたと思う。

当時、携帯電話もなく、ポケットベルもない時代、2時間おきに近くの公衆電話から本部に連絡、指示を仰ぐ。

正午過ぎに連絡するもランチを食べに出るかもしれないからと張り込み続行の指示、しかし、出てこない。

2時過ぎに定時連絡、ランチに出てこないと報告するもそのまま張り込み続行の指示。4時間立ちっぱなし、寄っかかれるところもなくガードレールでもあれば腰掛けられるのだがそれもなく足が痛くなってきた。さらに見逃してしまったのかと疑心暗鬼も出てきて足の痛さと不安に襲われる。

今度は4時前に電話を入れるもやはり張り込み続行の指示・・・。張り込み開始から6時間を過ぎても対象者は出てこない。

足の痛みと見逃したのではという不安に苛まれていた。

夕方5時半を回った時に対象者が勤務先ビルより出てきた、見逃してはいなかった。

写真を撮るも手が震えている。きちんと写っているだろうかと心配しつつ、さあ、これから尾行の開始である。

初めての尾行、しかも一人で。

神田駅方面に向かっている。一応、事務所の指示で張り込む前に神田駅で国鉄(まだ国鉄でした)と地下鉄の切符の最低区間は購入済みである。

現在はパスモやスイカなどでこの様な苦労が無くなったが、当時は前もって切符の購入や小銭を用意しておかなければならなかった。

対象者は国鉄神田駅に定期券で入り、山手線に乗車するもラッシュの時間と重なり、自分もどうにか満員電車に乗り込む。次の秋葉原駅では更に人の乗降があり、対象者と少し距離ができてしまった。

上野駅でどっと人が降車する。対象者の乗り換え駅でもあり、対象者も下車したまでは認めていたが階段近くのドアで人が集中、見あたらない。

見失ってしまった。茫然自失。

頭はパニック。どうしたらよいのか何も浮かばない。

しかたなく本部に見失ってしまったことを連絡すると乗り換え先である常磐線を確認したかと聞かれ、我に返り、急いで常磐線ホームへ走って向かうが、始発駅である上野駅を発車するところでドアは既に閉まっていた。間に合わなかった。

初めての調査で大失態である。どうなる探偵トトロ・・・。

初めての探偵調査・その2(完)
叱られるのを覚悟で本部に電話する新人探偵トトロ。 すると所長からすぐに上野駅近くの喫茶店へ行けとの指示。店名と住所を控え、急いで向かうと喫茶店前に面識のない35歳前後の男性と自分と同年代の男性がニヤニヤしながら話しかけてきた。 「失尾ったな

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totoro
totoro
探偵歴30年を超えるベテラン探偵。現在は主に依頼者の相談を担当。

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