潜入
金曜日の夜、姉が勤めていたとされるスナックに客として潜入する。
姉が現在も勤務していれば楽なのだが。
スナックに入るもなかなか一見の客が来る感じではない。どちらかというと小さいクラブといった雰囲気である。
それでも堂々と「間違いない。この店だ」とか言いながら久しぶり感を出して入っていく。
そして「2度目だけれど良いですか?」と入る。
女の子が「かまいませんよ。どうぞ」といい、潜入成功である。
「何ヶ月ぶりだろう。以前は先輩に連れられて来たから自信は無かったんだけど、間違いない、この店だ」と言いながら、おしぼりを持ってきた女の子と話をする。
飲み物を聞かれる。こういった初めての飲食店に潜入した場合、安いお酒でもかまわないからボトルをキープする。そうする事で女の子とすぐにうち解ける。
「キミは初めてだよね」
「私は4ヶ月前からなんですよ」
などと話していく。
長くいる女の子が「ごめんなさい。余り記憶が無くて。誰さんに連れられていらしたの?」と聞いてくる。想定内の質問である。
「先輩には内緒だから。いいよ。先輩の名前は。もし今日来たら驚くだろうけれど、たまに来てくれてると言って。確か数ヶ月前に5,6人できた1人だから、それに俺って印象薄いから」などと冗談を交え会話する。
勤めている女の子5人を見ても姉らしき人物がいない。出勤している様子は見受けられない。
そろそろ肝心の話へと持って行く。
「もう何ヶ月か前だけど、前回話をした女の子は今日は休みなのかな?名前はちょっとど忘れしてしまったけれど」
「ゆうかちゃんが今日はお休み。でも彼女も3ヶ月前からの人だから違うかも」
そうこうしているとお店のママがお客と同伴して出勤してくる。
かなり遅めの出勤である。そしてこちらのテーブルに挨拶に来る。
客と食事をして知り合いの店にも顔を出して来たのだろうか。多少、お酒が入っている。
こういったお店のママというのは一度来たお客の顔を覚えているので心配したが、こちらから先手を打つ。
「あっママだ。ママは覚えてる?俺の顔?半年以上前に何人かで来ているのだけれど」と嘘の情報を入れて話す。
この嘘の情報を入れるのがテクニックなのである。
案の定、ママは嘘の情報から想定して「あら、お久しぶり。又、来て下さったの。ありがとう。確かお名前は・・・」と返答しながら席についていた女の子に眼を向ける。
すかさず女の子が偽名である「○○さんよ」と言うと、「あっ、そうだわ。○○さんだわ、ありがとう。ゆっくりしていって下さいね」と言って早々に席を離れ、別のテーブルの挨拶に行く。
多分、ママは顔を忘れたと思っているに違いない。とりあえずママに対しても成功である。ママの出勤により途切れた肝心の話に戻していく。
席に着いていた以前より勤めている女の子に「以前についてくれた女の子は・・・」と依頼者である母親から聞いた印象や体格、そして写真からのイメージを話す。
そして「確か岡山出身だったと聞いたな」というと、すかさず「あっ、エリカちゃんじゃない。岡山出身だったらエリカちゃんよ」と話をしてくれた。
「そんな名前だったかな」ととぼけ、「そのエリカちゃんは辞めたの?あの時、けっこう気が合ってお喋りしたのに残念だな」
「辞めたのよ。確か半年以上になるかな。水商売は素人だったけれど頑張っていたのに。いい子だったんだけれど何かいろいろとあったみたい」
キミが虐めたんじゃないの?と冗談を交え、
「そうか、辞めたんだ。じゃ、岡山に帰ったんだな」
「帰ってないわよ。今も新宿で働いているみたいよ」
「エッ?」
重要な証言である。
「辞めた後、ここにも2度ほど来ているし、その辺の事情はママが知っていると思うけれど」
すぐにでもママを呼んでその辺の事情も聞きたいが、今日は金曜日でママも忙しそうである。
それに今でもたまにこのお店に来ているとなると、しつこい聞き込みをすると姉にばれてしまい元も子もない。
焦ってもしょうがないと判断しママへの内偵は次回にしてここは「別に良いよ。辞めてしまった女の子の事なんか。キミの方が楽しいし」と似合わないお世辞トークをしてその後、歌を2,3曲くらい歌い、そのスナックより出た。
姉が住んでいたアパート関係者や前の勤務先から情報は殆ど得られていない。
このスナックは辞めてしまったが、今も新宿のどこかの店で働いているとの情報に希望をつなげるしかない。
投稿者プロフィール
- 探偵歴30年を超えるベテラン探偵。現在は主に依頼者の相談を担当。
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