内偵
東京に戻った翌日、依頼者である母親から預かった資料を基に内偵準備に取りかかる。
まず姉が以前住んでいたアパートの聞き込みから始める。
少し離れた所に住んでいる大家は母親からの委任状を見て、かなり協力的になってくれた。
何しろ当時の保証人である母親(実際は父親名であるが)からの依頼で、行方不明となった娘を捜す親心を理解してくれたのだろう。
管理していた不動産屋にも電話してくれていろいろと話を聞いてくれたが、行き先を知る事は無かった。
そのアパートの住人に聞き込みに行くも全て不在でその日はあきらめ、姉の以前の勤務先に赴く。
まず姉の当時の直属上司に面談を申し込む。どうにか時間を作ってくれて会う事はできた。
ただ、以前の部下の不倫騒動に関する事と判ると、あからさまに嫌な顔をして早々に話を終わらそうとする。
しかし、こちらとしてはそうはいかない。こういった聞き込みには次は無いのである。
決して上司や会社には迷惑を掛けないと言いながら、なだめ、すかし、おだて、そして人情にも訴え、いろいろな手法で徐々にうち解けていく。
これこそ探偵の聞き込みの技術である。うち解ける事が肝心なのである。
すると妻子ある男性社員と不倫していた事件は確かにその妻が知り、会社に訴えた事で公となり、姉は退職、その男性社員は都内の支店に移動させられたという。
そしてその時点で2人の関係はきっぱり終わっているはずだという。
上司から更に姉について重要な情報が得られた。
その会社に勤務していた当時から、新宿のスナックに週の内2日間ほどアルバイトをしていた事も判明、その同僚男性も客としてもたまに行っていたらしい。
どうやら水商売に転身している可能性が高くなった。こうなると厄介である。
店の名前は会社で問題となった時に同僚男性から聞いており、当時の書類に書いてあるかもしれないとの事であった。
「どうにか店の名前を調べて教えて欲しい。それともし判ればその店での源氏名もお願いします。多少のお礼はさせて頂きます」と伝えると、
「源氏名は確かエリカと名乗っていたと記憶しています。名前は調べて判ったら連絡します。少し時間を下さい。それと他の社員には一切、聞き込みをしないで欲しい」と釘を刺されてしまった。
致し方ない。とりあえず上司の顔を立てなければ。
水商売の店判明と引っ越し
翌日から何度となく、姉が以前住んでいたアパートに赴くがなかなか情報が得られない。
3階建てのコーポ的アパートで姉はその角部屋である201号室に居住していた。
全て独身者で姉が転居してから新しく入居した人はいないのだが、階が違うと若い女性がいた事は記憶していても話をした事はなく、転居した事も知っていない人が多かった。
同じ階の人とはなかなか会えず、特に隣室である202号室の人とは全く接触ができない。
深夜、早朝では迷惑を掛けるし、まず話をしてくれない。致し方ないので連日、訪ねる事とする。
一方、姉の元勤務先上司から頼んでいた水商売の店名が判ったという連絡が入った。
折り返し連絡を取り、お礼もしたいので再度面談を申し込む。
しかし、もう関わりたくないとの事でお礼はいいので来ないでくれと言われてしまう。
実はお礼かたがた、更に姉に関する情報や不倫相手についてもいろいろと聞きたかったのであるが、多分、これ以上の面倒はごめんだという気持ちが強かったのだろう。
しかし、姉がアルバイトしていた店が判っただけでも大きな収穫ではあった。
現在もそのスナックに勤めていれば簡単なのであるがおそらくそんなに甘くないだろう。さっそく金曜日の夜に客として潜入する様に手配する。
アパートの方でも202号室の住人との接触ができた。すると半年以上前に男性3人が手伝いに来て引っ越していった事が判明。
どうやら引っ越し業者では無かった模様である。そして更に最初は昼間だけであった勤務も帰宅が深夜になる事も増えていき、水商売の仕事もしている雰囲気であった事が判明する。
男性関係を確認したわけではないが派手な印象は伺えたという事も聞き込んだが、その他、肝心の情報はあまり得られなかった。
投稿者プロフィール
- 探偵歴30年を超えるベテラン探偵。現在は主に依頼者の相談を担当。
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