依頼者到着
40分ほどして依頼者である奥様がタクシーで到着した。
上品な依頼者は「ありがとうございます」「本当にご苦労様です」「面倒をおかけしまして」と丁寧に労いの言葉をかけてくれたものの、だんだんと相手女性について問いただしてくる。
「お若い方?」「だいたいの年齢は?」「きれいな方?」「細い方?」「背の高さは?」「髪の毛の長さは?長いの?短いの?」「パーマは?染めているの?」「お化粧は派手な感じ?それとも地味?」「水商売風?それともOL風?」
などなど。
体格的な事は伝えられるが、印象は差し控える。
とても「奥様より年若く、細身で清楚な美人のOLタイプ」とは口が裂けても言えない。
ラブホテル出入口が確認できる少し離れた場所で依頼者を車に乗せ、待機する。
そして、
浮気相手女性について身元を特定するためホテルから出たら対象者を女性に変更して尾行します。
絶対に車から降りたり、声を出したりしないで、見ているだけにしてください。
何度も言い聞かせるように説得する。
大乱闘
22時になったが2人はまだ出てこない。
22時以降は宿泊料金も加算されるため出てくる可能性が高いのだが…。
さすがに奥様はイライラが増してきたのだろう。
上品な印象の奥様から「馬鹿亭主」「ろくでなし」などの罵声が繰り返される。
更に「なさけない」と言いながら泣き始めている。自分に対してか、ご主人に対してかは不明だが、興奮度が高くなってきている。
日付も変わり、ようやく日曜日の午前1時過ぎにラブホテルからご主人と浮気相手が寄り添うように出てきた。
調査員はすかさず撮影し尾行体制に入る。
その時、車の後ろドアが開き、依頼者が飛び出し追いかけるように走っていく。
あっ、駄目!
と叫ぶも聞く耳を持たない。
浮気相手を突き飛ばす。浮気相手が転ぶ。
やってしまった。ご主人は突然の出来事でびっくりしているが妻と認識したようであった。
起きあがった女性の頬に平手打ち一発!
パーン!きれいにヒット!
更に逃げようとする相手女性のバックを取り上げ、バックの中身を路上にぶちまける。
財布、化粧ポーチ、小物類、更には着替えたのか下着まで散乱する。相手女性も逆ギレし抵抗を始める。
何すんだくそばばあ!
うるせぇ泥棒猫!
とても上品なイメージは2人の女性にはない、汚い罵声の飛び合いである。
調査員もどうしようもない。
さらにつかみ合いになり、ご主人が依頼者を押さえる。
離せこの野郎!
と振り向きざまに平手打ち。
パーン!ご主人の顔にもきれいにヒットした。
ご主人が殴り返そうとする。
止めに入らなければ、とご主人を押さえる。
人殺し-!
依頼者は叫び、「探偵さん、写真を撮って!写真を撮って!」と繰り返す。
最悪だ。
「なにぃ、探偵だとぉ?」
ご主人はこちらを睨みつける。
身分を知られてしまった。とりあえず落ち着いてと双方をなだめるが依頼人の興奮は収まらない。泣きじゃくりながらご主人を小突いている。
そうこうしているとバックの中身を拾い終えた相手女性は走って逃げ出す。
追いかけてー!捕まえてー!
叫ぶ依頼者。
逃げる相手を追いかけてもしょうがない。逃げ回るだけである。それに探偵には束縛する資格も権利もない。
相手女性は通りに出てタクシーに飛び乗り、走り去った。
投稿者プロフィール
- 探偵歴30年を超えるベテラン探偵。現在は主に依頼者の相談を担当。
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