大乱闘・その1

三軒茶屋駅 探偵の記憶

浮気調査の依頼者の中には「ラブホテルや相手の家に配偶者が入ったらすぐに連絡をくれ、その現場に行きたい」と希望される方がいる。

通常は丁寧にお断りしている。

なぜお断りしているのか、理由は2つある。

一つ目は相手の家に入っても、入っただけでは浮気の証拠にならないから。

当然、訪ねていったとしてもなかなか出てこない、家にも入れてくれない。仮に出てきたとしても既に洋服はきちんと着てご飯をご馳走になっていただけとか、相談事があったので招かれただけだ、と言われてしまうとそれ以上どうする事もできない。

また、出てきた所を押さえても確実な不貞事実の証明にはならない可能性がある。

むしろ探偵を使って調査していた事が相手に判ってしまい、警戒されて調査自体が困難になる、浮気の証拠も押さえられなくなることが予想される。

ラブホテルでの出入りは確かな証拠となるが、ラブホテルから配偶者が浮気相手と出てくる現場に直面すると感情が高ぶり、冷静な判断が出来なくなる方がほとんどであろう。

「ラブホテルに入ったのを確認できたらすぐに連絡して欲しい。出てくるところを見たい。声は掛けませんし、見ているだけですから!」

いや、写真やビデオでも撮影はしますからといろいろ説明しても、最後にはそれが依頼する条件だと言ってくる依頼者もいる。

こうなってはどうしようもない。絶対に声は掛けないで下さいと念を押したものの、約束を守ってくれた方は少人数である。

大乱闘

声を掛けてしまった依頼者の中に探偵の記憶に残る「大乱闘」をしてしまったある依頼者がいる。

ある年の12月、年末に押し詰まった月曜日の昼下がり、40歳代女性から浮気調査についての問い合わせが入り、相談を受けた。

相談者は42歳、上品でおしとやかな印象のある専業主婦で、そのご主人には愛人らしき特定の交際女性がいて頻繁に浮気をしているらしい。

ただ出張以外に外泊することはなく、遅くなるときは終電時間か深夜3時頃には帰宅している。どうやら愛人は家族と同居しているのか一人暮らしではなさそうである。

浮気調査の料金を説明して納得され、契約となった。

ご主人は45歳。大手企業の部長職で残業や接待もあるという。

今週の木曜日から土曜日までは続けて忘年会が入っており、遅くなるので晩ご飯はいらないと言っていたそうだが、3日間のうち1日は愛人と過ごすと依頼者は思っており、木曜日より着手する事となった。

木曜日の早朝7時、依頼者と対象者の住む家の前に到着し張り込む。

契約の際、写真数枚を預かるがいずれも10年以上前の写真で最近は撮っていないという。

また勤め先も高層ビル内の大手会社である為、社員数も多く、退社時に写真だけで確認するのは厳しいと判断し自宅より調査を開始した。

これは当日の服装も判るし、通勤経路や勤務先の常時使用している出入口も確認できる。

一挙両得である。

依頼者の情報通りの7時40分に対象者が自宅より出てきた。

目立つ茶系のコートにベージュのマフラー、紺色のスーツに茶色の靴、黒の手提げ鞄を持っている。

三軒茶屋駅

全く警戒する事なく、歩いて最寄り駅である三軒茶屋駅に入る。

その後、渋谷に出て、山手線に乗車、新宿で下車。そのまま西口改札を出て勤務先方面に向かう。

下調べしてある勤務先の入っているオフィスビルの正面玄関より入り、高層階用のエレベーターで勤務先フロアに向かった為、調査を一旦打ち切った。

投稿者プロフィール

totoro
totoro
探偵歴30年を超えるベテラン探偵。現在は主に依頼者の相談を担当。

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