初めての探偵調査・その2(完)

ラッシュアワー 探偵の記憶

ラッシュアワー

初めての探偵調査・その1
探偵トトロが今の探偵事務所に就職したのは昭和57年6月、初めての探偵調査は今でも昨日の事のように覚えている。初めての探偵調査はある保険会社から弁護士を通してきた保険金詐欺案件であった。保険金といっても生命保険ではなく、交通事故による休業損害

叱られるのを覚悟で本部に電話する新人探偵トトロ。

すると所長からすぐに上野駅近くの喫茶店へ行けとの指示。店名と住所を控え、急いで向かうと喫茶店前に面識のない35歳前後の男性と自分と同年代の男性がニヤニヤしながら話しかけてきた。

「失尾ったな、あせっただろう。本人(対象者)は喫茶店の中で知人男性と合流しているよ」と。

窓越しから見える店内には対象者がコーヒーを飲みながら談笑している。

二人の男性はなんと面識のない先輩探偵たちであった。それも自分が対象者の勤務先を張り込む前から張り込んでいたという。

後で注意をされたが、見逃すまいと出入口ばかりを見ていて周囲の警戒を怠り、いくら面識がないとはいえ先輩探偵が張り込んでいたのすら気付かなかったのである。

その後、小1時間ほどして対象者と男性は喫茶店より出てきて店の前で別れ、先輩探偵と共に3人で尾行を再開、対象者は再び上野駅に入った。

そして常磐線に乗り、その後、まっすぐ帰宅して本日の調査は夜8時過ぎにやっと終了した。

とたんに足が痛いのと腹の減っているのに気付く。それを見透かしたかのように先輩探偵の一人が「腹、減ってないか、昼飯も食べていないだろう。みんな直帰だからラーメンでも食べないか」と誘われ、3人でラーメン屋に入った。

食事をしながら先輩探偵から「すまなかったね。所長の指示でうちらに気付くまで一人で頑張らせろ、との指示だったんだけどキミは全くうちらに気付かないし、初日に現場に出て見逃すまいと一生懸命だったのは分かるけれど張り込んでいたところではキミが一番怪しかったよ、まあ、この現場は今日で終わりだし対象者にも気付かれてはいなかったからよかったけれど」

「それとこのような尾行する調査は探偵一人ではまずしないよ。まして新人一人になんて絶対に任せないから」

考えてみればその通りである。

本日探偵としてデビューした全くの素人である。現場を任せられる訳がない。

いわゆる適正テストだったのである。考えると反省点ばかりである。

探偵トトロの反省点とは・・・。

初めての探偵調査の翌日、撮影した写真を現像(当時は全てフィルムでした)に出し、調査日報を提出した午後、所長と先輩を囲み、昨日の反省会ミーティングとなった。

まず張り込み状況から指摘された。

小さな雑居ビルの建ち並ぶ商業地域でビル出入口は約5m道路に面していた。

私は、顔写真と体格、服装のみの情報だったのでほぼ真ん前にて移動することなく、ずっと7時間半を立って対象者の勤務先ビルから出る人を見ていた。近隣から見たらかなりの不審者であったと思う。

いつ終わるか分からない張り込みはできるだけ確認かできる場所を移動して近隣から不審者に思われないように気を配る事も必要で、もし対象者が何度も出入りを繰り返していたら、まず気付かれてしまい、その時点で探偵は失格だと指導された。

上野駅で見失ってしまった事に関しては夕方のラッシュの時間帯を充分に把握していないと指摘された。

ラッシュの電車の際には対象者の体を押し込む様に自分も同じドアから乗り、背中なり腕なり、一部が密着していなければならない。次の駅などで人が大勢乗り込んできても人の波に流されず、対象者との密着を続ける。もちろん、顔は別方向でかまわない。

ガラガラの状況、席がある程度いっぱいの状況、ラッシュではないが人がけっこう立っている状況など、その状況でも尾行の仕方が変わってくる。

自分は密着しておらず、次の駅で人の波に押され、対象者と少し距離が開いてしまった。結果、上野駅という乗降客の多い駅で見失ってしまったのである。

また駅の階段や改札口には人が集中するのでいかなる時間でも注意が必要だという。まして今回はラッシュの時間の階段近くのドアから出て行った。

東京で探偵をするなら都内の全ての駅を掌握しなさい。とも。

それはどの駅につくと左右どちらかのドアが開くか、階段や改札に近いドアは何両目の何番目のドアであるか、これは対象者も常時利用する駅は改札や階段の近いドアを利用する癖のある人が多く、皆さんも通勤、通学時はこのような行動をしている人も少なくないでしょう。

また乗った駅から何番目の場合はだいたい料金がいくらぐらいになるか(当時は切符があれば改札で精算が出来たため)などなど。

所長や先輩探偵にいろいろと指摘され、探偵という仕事を簡単に考えていた探偵トトロはこれからいろいろと学習しなければならない事に驚かされた。

昨日の写真が夕方仕上がってきた。見ると殆んどがぼけていて2,3枚がかろうじて写っているが全て後ろ姿。報告書に添付する写真にはもちろん1枚も採用されなかった。撮影技術も学ばなければ。

更に車の尾行、様々な聞き込みなど探偵技術とは一朝一夕で覚えられるものではなく、本当のプロの探偵とは多くの知識と技術が必須である事を痛感させられた初めての探偵調査であった。

投稿者プロフィール

totoro
totoro
探偵歴30年を超えるベテラン探偵。現在は主に依頼者の相談を担当。

コメント